目覚める浴室
いきていることのすべてを、ときどき、思い悩むみたいに。蝶の舞う教室で、蜜を滴らせる花が、あの、なまえのない感情に、甘い息を吹きこむ。朝の空は白んで。ずたぼろになった、やさしいあのこの、やさしいことばが、いつか、どこかの国の美術館で、たいせつに展示されればいい。それだけの価値があると、だれかにいってほしかった。おわらない夜をかぞえながら、はいる浴槽。水。とうめいの。
朝の気配を、窓のすきまから感じる頃に、迎えにきて。どうか。
無自覚の暴力。インターネットで蔓延していて、でも、さわらなければ、傷つかない。はずだと思っていたのに、無機質なことばは、しらないあいだに、ここ、指の腹に刺さって、抜けなくなっている。植物の、ちいさな棘みたいな感じ。べつに、だれがわるいのではなくって、処理能力が追いつかないくらい、情報が、濁流のようにおしよせてくるのに、たえられなかっただけ。うそも、まことも、いっしょくたになって、だれかをよろこばせ、かなしませ、おこらせて、ときには、呼吸すらも、うばうよ。
目覚める浴室