目覚める浴室

 いきていることのすべてを、ときどき、思い悩むみたいに。蝶の舞う教室で、蜜を滴らせる花が、あの、なまえのない感情に、甘い息を吹きこむ。朝の空は白んで。ずたぼろになった、やさしいあのこの、やさしいことばが、いつか、どこかの国の美術館で、たいせつに展示されればいい。それだけの価値があると、だれかにいってほしかった。おわらない夜をかぞえながら、はいる浴槽。水。とうめいの。
 朝の気配を、窓のすきまから感じる頃に、迎えにきて。どうか。
 無自覚の暴力。インターネットで蔓延していて、でも、さわらなければ、傷つかない。はずだと思っていたのに、無機質なことばは、しらないあいだに、ここ、指の腹に刺さって、抜けなくなっている。植物の、ちいさな棘みたいな感じ。べつに、だれがわるいのではなくって、処理能力が追いつかないくらい、情報が、濁流のようにおしよせてくるのに、たえられなかっただけ。うそも、まことも、いっしょくたになって、だれかをよろこばせ、かなしませ、おこらせて、ときには、呼吸すらも、うばうよ。

目覚める浴室

目覚める浴室

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-20

CC BY-NC-ND
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