海が見える街  元日編

高知に移住して山の中に住んでいましたが、去年の年末から一転、海の街での生活が始まりました。
そんな日常からあふれるエピソードを記していきます。

暴力じじい

 新年あけましておめでとうございます。今年は何が違うかって、海の街で一年を迎えるのですよ。生まれが海の無い県で有名な埼玉県の私がそんなことになるなんて、生まれたときには考えもしなかったわ。いやあ人生どうなるかなんて分かりませんね。本物の占い師はこういうことまで分かったりするものなのですかね~。「将来、君は海のある街にいるだろう」とか言われてさ。そんなの海のある街なんかなんぼでもあるわい!とか全然信じなそうだけど。

 そんな海に浮かぶ初日の出を見てみようと、少し山に登ってみて気付きました。海側は西で、自分の背中の方にあるのが東だと。背中の方は気高い山々。ガックリ。。そういえばいつも海に綺麗な夕日が落ちているわね~、忘れていたわ。ところが、、そのあたりの地形が幸いしてか何なのかは分からないですが、海に大きな虹がかかっているではありませんか!普段でも見ることのあまりない幻想的な虹が、元日の一発目にみられるなんて!今年はいいことありそうだわ。と、しばし見とれてしまいましたよ。
 
 ところで、、私が海の街にいるのは海老の養殖の仕事をしているからである。この海老を陸上で養殖をしているところは珍しいらしく、当然そこの社長もその辺の陸上にいる社長とは違い大変珍しい種類の人である。まず、何がすごいって80歳を超えている。それでいて、2mほどの水槽タンクをすいすい上り、買い物用に私に預けた1万円のおつりを3日経ってもしっかり忘れないほど心身が充実しているのだ。さらに、海老という生き物を扱う以上、常に何があるか分からないし、観察や餌やりもあるため、社長は家を離れて海岸沿いの養殖場で寝泊まりしているのである。そんな社長に元日で出勤した折に新年のあいさつをしにいくと「今日は、家に帰って家族と雑煮を食べるから昼に一緒に行くぞ。」と言われた。私は、正月に雑煮が食べられる、しかも博多の雑煮はブリが入っていてとても美味しいと聞いていたので心躍る反面、不安な気持ちも抱えていた。それは、年末年始を利用して帰省中の社長の娘さんのことである。社長とその娘さんは仲が悪いわけでもなさそうであるが、仕事のことをああだこうだと娘に言われ、現場を知らん奴に何がわかる!と顔を合わすたびに揉めているそうだ。そんな家族の中に見知らぬ他人の私が入ってまたヒートアップしたらどうしよう。そんな不安が伝わったのか社長がいきなり「今日は娘が何か言ってきたら殴ってやる。今の日本には暴力がない。だから俺が暴力じじいとして存在するんだ。」と声高らかに唐突に宣言したのである。こんな元気な80歳が世の中にいることの驚きと、自分をしっかりじじい呼ばわりしている知性に感心したのと、そんな場面が見てみたいという好奇心で私の頭の中の雑煮は隅に追いやられ、「はあ、暴力じじいですか。。」と返答することで精いっぱいであった。

続く

海が見える街  元日編

新年早々、社長一家の大波に巻き込まれていきますが、果たして無事に帰ってこられるのでしょうか?
乞うご期待。

海が見える街  元日編

海の街の社長は大変ユニークな人で、その家族も一癖も二癖もあるというお話。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-06

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