もうすぐ雪が降るよ

 ふたりぶんの温度だけ、あのばしょにのこっている。
 空気がつめたいのは、季節が冬のせいで、どうぶつたちが夜になると泣くのは、この星がいま、すこしだけ病んでいるから。なんだか、ブーツがきついのは、さむいためにはいた毛糸のくつしたの厚み。外国からきたグリズリーがやっている、スープの専門店で、海老のビスクを注文する、きみと、かぼちゃのポタージュを注文する、ぼくが、絵本のなかの、ほっこりした光景みたいだって思った一瞬。ちょっと笑った。好きと信仰心はべつもののように、きみに対する好きと、あのひとに対する好きは異なるし、あいしているからしにたいのと、あいしているからころされたいのも、またちがうもので、世の中、なんでもそうだろうと思う。もうすぐ雪が降るらしい。この街には、よく似合っている。崩れかけたビル、荒れ果てた家、寂びれた教会。朽ちたアスファルトと、剥き出しの鉄筋、ときどき、にんげんの骨にみえる。ぼくらはスープを飲みながら、いまさら、世界のことを想う。

もうすぐ雪が降るよ

もうすぐ雪が降るよ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-05

CC BY-NC-ND
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