元日のこと

 ねこが、なんだか、ふてぶてしい表情で、ぼくの方を見ていて、べつに、ぼくは、きみになにもしていないけれど、と思いながら、コンビニのまえで、ニアを待っていた。アイスは、ドラッグストアか、スーパーマーケットの方が、安価で買えるのだけれど、さいきんの元日は、みんな、たいせつなひとたちとゆっくりすごせるよう、働き方というものが、変化しているらしく、近所のドラッグストアも、スーパーマーケットも、おやすみだったために、コンビニに来たのだ。ニアは言う。こうやって働いてくれているひとがいることに、感謝しなくてはならない、と。ゆえに、アイスだけではなく、スナック菓子、ジュース、おにぎり、パン、カップ麺、冷凍食品、さらにはティッシュ、マスクなどの日用品も、ニアは、ばんばんとかごに入れていたのであった。商品を大量に購入することで、お店の売り上げにはつながるだろうけれど、レジのひとは、こんなに買ってレジ打つのがたいへん、などと思ったりするのだろうか。販売のアルバイトをしたことがないから、わからない。店内は、それなりににぎわっていたので、ニアはぼくに、外で待っていろと言った。コンビニの駐車場は、たしかにいっぱいであった。車は、ほとんど走っていないが。そういえば、さいきんは、着物のひとを、あまり見かけないなぁと思いながら、ぼくは、なんとなく空を見上げた。快晴。空気は凍えそうなほど、冷たい。起きたのは七時で、初の日出は見に行けなかったけれど、ふとんのなかで、ニアと、起き抜けのままにふたり、ぼやぼやとしているのが、お正月、という感じで心地よかった。まだ、夢を見ているみたいな、できることならば、このまま、ずっと、そうしていたいと思った。でも、にんげんなので、お腹が空けば自然と、からだは目覚めるものなのか、ぼくも、ニアも、三十分後には、お正月特番を観ながら、トーストをかじっていた。トーストなんて、いつもの朝食にもかかわらず、ふしぎと、高揚するものがあって、ああ、これが、あたらしい年を迎えた気分ってやつかな、なんて思ったりした。自動ドアが開いて、両手にエコバッグをさげたニアが現れて、ぼくはあわてて、そのひとつに手をのばす。ちょっと買いすぎたかな、と呟くと、ニアは、新年だからいいだろうと、計画通りに事が進んで愉悦に浸っているひとみたいな微笑みを浮かべた。

元日のこと

元日のこと

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-01-01

CC BY-NC-ND
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