白日
角がある、あのひと、が、ぼくの頸から、右肩にかけての、すこし、やわらかな部分を、噛む。なんだか、そのあたりの、筋肉繊維が、ぷちぷちと切れたような感じは、否めないで、けれども、ふしぎと、痛みなどはなく、まひ、しているのか、はたまた、あのひとに触れられたことで、なんらかの催眠に、かかってしまったのか。とにもかくにも、これで、ぼくは、あのひとに傷をつけられた、らんぼうな言い方ではあるけれど、キズモノにされた、ということで、永遠にあのひとのものと、なったわけである。あのひとのあたまに、二本の角、はあっても、牙、はなく、なんせ、本来は、ベジタリアンであるものだから、肉を噛みちぎるような、鋭い歯は不要で、ただ、葉物をすりつぶし咀嚼する癖があるためか、噛む力は、それなりにあるのだと、いつか、おしえてもらった。血は出ていないが、痕はくっきりと残っている。痛みはないが、血管、肉、神経、骨が、その部分だけ、ぎゅっと圧縮されたみたいな感覚は、ある。白いシーツのうえ。かたいマットレスの、簡素なパイプベッド。ゆびわなど、交換しない。あのひとの指に、ゆびわなど、じゃまなだけなのだ。ぼくが、あのひとの、左側の角にそっと、くちづけて、誓いの証となる。おめでとうと言ってくれるひとは、だれもいないので、ぼくはこころのなかで、ひとり、おめでとうとつぶやく。きょうは結婚式。ふたりだけの。
白日