クリスマスイブの夜

 せかいがはんぶんくらいやさしければ、いいのに。
 ケーキは、しろくまがつくってくれているから、買わない。チキン、より、ビーフ派である、ぼくは、すき焼きがいいと思ったので、いつもよりもお高めの牛肉を、胸に抱えて、イルミネーションにきらめく街を、速足で歩く。たいせつな、たからものみたいに。しろくまへのプレゼントは、マフラーにした。くびまわりがさむいと、しろくまはときどき、ぼやいていたので、しろくま、だけれど。幽かに、飛行機の音がする。街は、独特のにぎやかしさが、あるのに、みょうな静けさも、感じる。あの、雪が降っているときの、静けさに似ている。雪は、降っていないし、街は、むしろ、雑音に、みちているのだ、が、昨年とちがうのは、クリスマスソングが、流れていないせいか、あの、おとなも、こどもも、自然と心が躍る、クリスマスのためにつくられた歌が、ないのは、やっぱりさみしいなぁと思う。
 七年前の、クリスマスは、おとうさんがいた。おかあさんがいて、いもうとがいた。おばあちゃんがつくった、バターケーキをたべて、例にならって、チキンをたべた。プレゼントをもらって、純粋によろこんだ。えんとつがなくて、サンタさんくるのかな、と、はんぶん泣きそうになりながら心配していた、いもうとは、かわいかった。いまは、みんな、森にいて、森のなかの、あの、お屋敷で、クリスマスを、しているのかもしれない。ほかの、しらないだれかと、わいわいと、パーティーをしているのかもしれない。ぼくは、選ばれなかった者なので、お屋敷には、はいれないけれど、しろくまとの暮らしも、それなりに愉しい。七年前も、いまも、ちゃんと、ぼくには家族と呼べるひとがいて、それだけで、しあわせなのかも、と思う。お金とか、社会的地位とか、そういうのよりも、そばに、だれかがいてくれること。好きなひと、愛するひとが、ひとりでもいること。
 夜。
 さんざめく光の海を、泳ぐ。

クリスマスイブの夜

クリスマスイブの夜

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-24

CC BY-NC-ND
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