ひとりよがり

 さみしさにまみれて、しずんでゆくとき、それは、沼に、あしをとられて、からだを、もっていかれる感覚に、きっと、にている。じっさい、沼に、はいったことは、ないのだけれど。でも、さみしいって気持ちは、たぶん、身動きをとれなくしてしまうと思うのだ。絡めとって、離さない。信号の、光を、じっと見つめていて、すこしだけ気分が悪くなる、深夜に、きまぐれで、じゆうな、あのひとに、抱きしめられたとき、皮膚の内側、血管、神経、あらゆる臓器・器官、肉よりも奥、骨まで達するほどの、愛は、伝わってこなかったし、それは、しかたのないことだと、あきらめていた。内側には、はいりこんでこなくても、表皮だけでも、あのひとの体温を、感じられたのだから、それだけでいいのだと、言い聞かせるようにしている。過度な期待は、余計な空しさを、生むということ。突き刺されて、傷を負うほどに、いつまでも、治らないで、ちくちくと痛むたびに、あのひとを思い出せるように、してほしいというのは、なんだか、ちょっとした、ナルシシズムみたいな、祈り。
 恋が、やさしかったことなんて、一度もなかった。

ひとりよがり

ひとりよがり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-20

CC BY-NC-ND
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