透明な抜殻

突き刺すような寒空の下

ひっきりなしに洟(はな)を啜り

肩を聳(そび)やかして歩いている

花という花は視られず

枯葉ばかりで、枯草ばかりで

嵐の後のしずけさのようで

巨大な何かの抜殻のようで

遠くどこかの海岸のようでもあった

一歩、また一歩と歩く度に

足が縺(もつ)れ、胸が焼け焦げ

全身の感覚が、神経が麻痺するような

そんな不吉な予感に駆られ

それを煽るように鼓動は速まり

足が竦み、遂に膝から頽(くずお)れてしまった

朦朧とする意識の中、失ったものを数えていた

失ったものだけで創られた場所の温度を夢想しながら

一歩踏み出す度に落としていったものの価値を推量しながら

抜殻の世界で私は 宙を彷徨(さまよ)いつづける透明な抜殻に変貌していった