やさしいの暴力

 けしてゆく、あかりを、ひとつ、ひとつと。よる。慈悲により、どこかしらが麻痺する、神経。だれかからのやさしさに、つばを吐くようなひとを、ぼくは、ゆるせないと思う、はんめん、きっと、他人のやさしさが、どうしようもなく歯痒く感じる、ひとも、いるのだと思う。街灯を、お店のかんばんを、あやしく光るネオンを、けしてゆくのは、よるのひとたち。二十三時に、なぜだかふいに、恋しくなる、クロワッサンの、バターの香りを思い出し、きみたちがねむる、ちいさな部屋の、かたすみでひとり、本を読んでいる。お誕生日おめでとう。きょうは、きみたちのなかのひとりが、このせかいに生まれた日だった。おめでとう。でも、ざんねんだったね。こんなせかいに生まれて、かわいそうにねと、さびしそうに微笑むひとをみて、胸くそ悪さに少しだけ、吐き気がした。ケーキはおいしかった。チョコレートケーキが好きな子で、ケーキを食べているあいだじゅう、ずっとにこにこしていた。ぜんぜん、かわいそうなんかじゃなかった。ぼくは、音をたてずに、本のページをめくりながら、思った。今夜は、風がつよくて、まどが、がたがたと揺れて、きみたちのなかで、いま、ここにはいない、しらない星で、おとうさんと呼ばれるひとと、暮らしている、きみのことを想って、ときどき、目をつむった。骨が鳴いてる。

やさしいの暴力

やさしいの暴力

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-18

CC BY-NC-ND
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