運 命
おとうさん、胎児、どうしようもない夜のおわり、朝の気配に、ポーションミルクをひとつ。不純物が混ざって、すこしだけ、やさしくなるような気がする。暴力的な日常。学校、会社というのは、檻。あの場所、町のはずれの、教会と博物館が一緒になった、よくわからない寂れた建物の、祭壇、のようなところだけが、静謐。
第一音楽室から、崩壊した。ピアノと、つくえと、いすと、有名な音楽家の肖像画と、先生のつかっていた楽譜が、みんな、空に吸い込まれるみたいにして、きえた日。ぼくときみは、あくま、というものを見たのだ。あくまは、のんびりした口調で、けれど、あくまらしい、いやらしい感じで、言った。にんげんどもの愛をみんな喰らってやる、と。ばかみたいって思ったし、やばいとも思った。これは夢だと、うわごとみたいに繰り返し唱えるきみが、とちゅうで、身投げをするのではないかと、はらはらした。屋上。あくまは、血で染め上げたように赤黒い空を背に、ときどき、あくびをした。やる気があるような、ないような、そんな調子で、でも愛だけでは腹は膨れないからコンビニスイーツも食べたいな、などと呟いた。聞いてもいないのに、おれはシュークリームが好きなのだと自慢げに言う。ぼくは、きみの精神をおちつかせるために、ずっと、きみの手をにぎっていて、それに気づいた、あくまは、生産性のない愛が最も醜いのだと、とつぜん怒りだし、ぼくはふるえるきみの手を、はなした。
運 命