ふたりのはなし
咎人のはなし
「罪を告白せよ」
と、きみが、まるで、最後の審判をくだすキリストか、の如き重々しさで、こたつでぬくぬく、みかんを食べていた、わたしを、じっと見下ろしてくる。いつもの、黒いタートルネックに、黒いズボンで、洒落っけがない分、なんだか、ほんとうに、どこかの裁判官、みたい。
「えー、と、罪?」
「左様」
こいつ何様だ、と訝しみながら、わたしは、直近で、これは罪かも、と思われる事柄を、ぽつぽつと告白した。
「…電車で、おばあちゃんに席を譲ろうとしたら、まだそんな歳じゃないわよって怒られた」
「うん、まあ、それは仕方ないし、罪には値しないかな」
「上司の言動に腹が立ったから、出涸らしのお茶を出した」
「罪と呼べるレベルではないね」
「ものすごいつかれてたから、トイレットペーパーがおわったけどかえなかった」
「ああ、そういう日もある」
「………冷凍庫のなかのハー◯ンダッツ食べた」
「はい、重罪」
にっこり微笑んだきみは、裁判官というより、悪魔だった。
吸血鬼のはなし
吸血鬼は実在するか?、という問いに、いるに決まってるじゃん、と、なにあたりまえのことを、と、はんぶん呆れたような表情をする、きみのことを、だから、わたしは、いいやつだと思うのだ。おとなになって、吸血鬼がいるとか、いないとか、そんなの、だいたい嗤われるような話題を、きみは、吸血鬼は存在するのが世界の常識、みたいな感じで、いてくれるので。
「じゃあ、血を、吸われたい?」
わたしはたずねた。
ファミレスで、きみは、ジンジャエールを飲みながら、
「死なない程度になら、吸われてもいいかな。献血や採血と、どうちがうのか知りたいし」
と答えた。
そんなこと知りたいひと、あんまりいないかもしれないけれど、きみなら、まあ、そうだろうなぁと思いながら、わたしは、トマトスープパスタを注文することに決めた。
通路をはさんだ、となりの四人がけテーブルに、やたらイケメンの、でも、ホストみたいな男と、反対に地味で、仔犬みたいな男の子が、なんだか仲睦まじく、話している。兄弟、にしては似てないようだけれど、その、見た目の格差に伴うような不穏な関係性は、感じられない。
「わたしも、かっこよくてうつくしい吸血鬼になら、吸われてもいい」
そう言うと、きみは、ちょっといじわるそうに、くすっと笑った。
「あまりにも期待通りの返答で、逆に期待外れだなぁ」
なんだよそれ。
ふたりのはなし