愚者と憧憬

きみにとっては、それほど重要な約束ではなかったということか?だってそうだろう
きみがそうやって、見せつけるように死にたがっていることで
僕がどれだけ傷ついているのか きみは一度でも考えたことがあるのか?
その振る舞いが僕たちの約束の価値を下げていることに、きみは気付かないのか?
本当に気付かないのか?聡明なきみが?
それともわざとやっているのか?
そうだとしたら、どこからが芝居だったんだ?最初からか?
僕が馬鹿が嫌いな理由は前にも話したろう、そうだ、憧憬からだ。
馬鹿になりたかったよ。それも正真正銘の馬鹿に。
けど現実は違った。僕は中途半端な馬鹿だった。それが何を意味しているかわかるか?
狂い切れないんだよ。佳境に入る手前で醒めちまうのさ。こんなに残酷なことは、無いね。
こんなに屈辱的なことは、無いよ。
狂うふりでもしていればよかった。でも無理だった、約束に未練があったから。
僕だって死にたい時はあった。でもきみの前でそれを見せたりはしなかった。
きみが、傷つくと思ったから。傷つくきみを、見たくはなかったから。
一瞬で息絶えるより、苦痛の中で生かされる方が地獄的なんだよ。
最後に言いたいのは、それだけだ。でも、僕は幸せだった。
最後が悲惨な不幸であろうと、僕には確かに、幸せだった時があった。

愚者と憧憬

愚者と憧憬

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-12

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