夜更けのいちごパフェ
いちごのパフェと、夜の、かなしみに染まった色、グラスのなか、アルコールだとおしえてくれた、天使みたいなひと。そう、天使みたいなひと、は、いまにもわたしを、天の国に導いてくれそうなほどに、おだやかで、やさしいひと。かおも、なまえもしらない、インターネットのなかの誰かと喧嘩をしたという、ともだちのあもちゃんが、あおるようにワインをのんでいる。わたしは、ほとんど、お酒はのめないので、いちごのパフェを注文したのだけれど、パフェといっしょに添えられた、なんの飾り気もない、ふつうのグラスのなかみは、ただの水ではなくて、空よりも淡く、海よりも柔らかい、ブルーだった。死にたい、とか、あもちゃんが呟いているけれど、わたしは、そんな、かおもなまえもしらないようなやつと、喧嘩をしたからって、死ぬひつようはないと思う、と、冷静にかんがえている。天使みたいなひとは、カウンターの向こうで、微笑みをはりつけたまま、食器を磨いている。ビーフカレーが、おいしいんだって。バーだけれど、お酒はのまないで、カレーだけをたべてかえるひとも、いるのだとか。あもちゃんにとって、その、インターネットのなかのひとが、どれだけの存在だったのかは、わからないけれど、でも、やっぱりわたしには、ふしぎなのである。そんな、肉感のない、無機質で、つめたい、画面の上にのせられるだけの、文章でしかわからない、相手に、そこまで、こころ、揺さぶられていることが。よほど素晴らしい、ひとなのだろうか、あもちゃんにとって、そのひとは、目の前にいて、いつも、ごはんをたべにいったりするわたしよりも、たいせつで、喧嘩をしたくらいで死にたいと思うような、ひとなのだろうか。わたしより。わたしより。わたしなんかより。
いちごのパフェのいちばん上にちょこんとのった、真っ赤ないちごが、なんだか憎たらしい夜だ。
夜更けのいちごパフェ