ある船

大海の中で行き場を失ったその船は、もはや原型をとどめてはいなかった。

こんな途方もない場所で正気を保ち、かつ楽観的でいることなど、

てんで無理な話だった。いや、その気になれば出来たのかもしれないが

その時は誰もが不測の事態に狼狽していて、

誰もが盲目的で、誰もが短絡的になっていた。

科学者も、測量技師も、占星術師も、統計学者も、

誰一人として、何の役にも立たなかった。

それもこれも、我々が自然に対して

傲慢な態度を取り続けていた結果だ。自業自得だ。必然だ。

嗚呼、それなのに!この期に及んで誰も反省していないとは!

自分の生命に、人生に執着しているからといって、

それが他人を蹴落としていい理由になるとでも思っているのか?本当に?

肝心な時に自分の身を犠牲に出来ないで、何が世界平和だ。

所詮は体裁に囚われている連中のおままごとじゃないか。

下卑た真似をして、汚い笑みを浮かべて。

おまえたちの理屈はもう聞き飽きた。それは前提から破綻しているではないか。

見ろ。おまえたちの醜態に愛想を尽かした司令塔は

この大海に、誰よりも先に身を投げたのだ。

ある船

ある船

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted