Beyond_description

景色だったり言葉だったり、とにかくいろいろなものが無秩序に収められたファイルがある。頭の中にある。胸の中にある、といってもいい。わたしはそのファイルをひらくといつも、高揚するような、けれども同時にとてつもない憂鬱にさらされているような、対極にあるはずの感情が綯い交ぜになった、そんな不思議な気分になる。対極にある感情たちはそれぞれがそれぞれを引き立たせ合い、いつしかそれぞれが手に負えないほどの勢力になり、わたしはその混沌の中で何かを見つける。あるいは、わたしがその何かに見つけられる。既視感が何の役にも立たないことを知る。本当にうつくしい、あるいは強烈なものを前にしたとき、ひとは、文字通り、言葉を失うのだろう、何度でも。けれどもそれは清々しさを孕んだ諦念で、わたしはあらゆる固執を手放して初めて、あらゆる意味を失って初めて、本当の価値を知ることが出来るのだろう。ページを捲る指先が震える。触れている感覚などないはずなのに。ファイル名は『Beyond_description』。ここはわたしの歴史の中で、最も冷たく、最も温かい荒野だ。

Beyond_description

Beyond_description

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted