ナニソレ?

「これあげる」

そう声をかけられたのは、取引先の事務所を出ようとした時だった。

その人はその会社で働くOLさんで、まぁオフィスで働くレディだからOLという事に間違いは無いのだけど、彼女はその会社で用務員的なそんな存在の人だ。いつも元気に屈託の無い笑顔で挨拶をしてくれる可愛い人で、きっと誰からも好かれるタイプだ。

彼女が差し出したソレは、紙のような木のような、見方によってはゴミのような、そんな感じの小さなものだった。

僕は嬉しかったのだけど、どう見てもそれが何だかわからなくて

「何コレ?」

と、聞き返してしまった。聞き返してから少し後悔した。彼女は笑みを浮かべながら

「えっとね、なんでもないの」

そう言ってソレを引っ込めた。僕は言いたくもない言葉が口をついて出てしまった。

「ナニソレ?」

彼女はそのまま事務所に入っていった。僕はなんとも言い様の無い寂しい気持ちになった。もし「ありがとう」とそのままアレを貰っていたらどうなっていたのか?

僕は激しく自分を責めたけど、会社へ帰ってから同僚にその話をしたら

「ナニソレ?」

と、呆気なくあしらわれた。

ナニソレ?

ナニソレ?

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-09

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