劣化

 六人目のからだは、もう、どこかしらが、腐っていて、冬の、ただ枯れてゆくばかりの植物を、愛おしく思う瞬間の、かすかな痺れ、さびしさと共存する、日々の、色を失った声が墜落する。星。
 あしたになったら、五人目がきえる。
 幾度という、分身。コピーアンドペースト。劣化するばかりだと嘆く、せんせいの肩を、ぼくはそっと叩く。はんぶんほど腐った、左手で。町で、さいきん流行っている、パンダのクレープやさんの、ぼくは、ツナコーンマヨクレープが好きです。せんせいは、おかず系クレープは邪道、などと言うひとで、どっさり生クリームの、たっぷりチョコレートを好むひとです。クレープやさんの近所にある、フラワーショップに、ともだちがいます。白い花を病的に愛しているひとで、部屋が、白い花で溢れている。すこしだけ、病院みたいと思った。パンダのクレープやさんの、店主であるパンダの、こども、コパンダが、海のいきもの図鑑を片手に、海洋生物のことをあれこれと語ってくれる、クレープができるまでの待ち時間に。六人目ともなると、肉体もそうだけれど、記憶力にしても、思考回路にしても、なにかしらの不具合があるようで、コパンダのはなしは、なんだか、うまくあたまのなかに入ってこない。拒否している、というより、接続されない感覚。もともと備わってる知識に、あたらしい情報が結ばれない。繋がらない。断絶される。
 川の流れをみていると、悩んでいたことすべてが、どうでもよくなる。
 そういって、フラワーショップのともだちが、よく、仕事のあとに、川を眺めている。おおきくもちいさくもない、町のなかにある、川。すでにいない、一人目から、四人目までのぼくのことを、ときどきでも、思い出してやりたいと思うのに、記憶は失われてゆくばかりだから、思い出してやれないでいる。ごめん。

劣化

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-07

CC BY-NC-ND
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