十五時の雑談

 レッスンルームには、白い女の子がひとり、たたずんでおり、ユウレイ、といううわさもあるけれど、でも、ちゃんと脚あるし、と言い放ったのは、きみで、雑居ビルの、二階の、ダンススタジオの、一室、ジャズダンスや、ヒップホップや、社交ダンスやと、曜日によって異なるダンス教室が開かれているなかで、バレエダンスは、ないとのことだけれど、女の子は、明らかに、バレエダンサーだった。ぼくは、三階の、クッキング教室に、きまぐれに(正しくは、お菓子を作る日だけ)通っていて、エレベーターのない五階建てビルの、階段を上がっているとき、二階のダンススタジオのようすが、ちらりとうかがい知れるものだから、女の子のことも、幾度か目撃したことがあった。とにかく、白い、雪のように白くて、そして、細い、女の子だった。骨みたい、と思ったのは、すこしだけ、申し訳ないなと思ったけれど、でも、それくらいに肉付きのない、女の子だったのだ。身に着けているもの、バレエシューズも、全体的に淡く、なんだか、存在そのものがぼやけている感じで、不確かな輪郭で、鏡に映っているのだか、いないのだか、ガラスの扉越しでは、よくわからなかった。女の子はだいたい、木曜日にいて、木曜日は、創作ダンスの教室が行われているのだけれど、女の子はもちろん、その輪には加わらず、ひとりぽつんと、たたずんでいるので、やっぱりうわさどおりかと、ぼくは思っていた。きみは、脚があるからユウレイではない、と言い切るけれど、今時、脚があるユウレイなんて、めずらしいものではないのではないだろうか。一階の、喫茶店で、アルバイトをしている、きみは、休憩時間に、ぼくと、たまごサンドを食べながら、ユウレイは脚がないのが相場でしょ、と、ちょっとムッとした表情で言うのだった。
 となりの、となりの席のしろくまが、アイスコーヒー片手に、ジャンプ読みながら泣いてる。

十五時の雑談

十五時の雑談

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-06

CC BY-NC-ND
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