残影

無色の蝶が飛び回り、そこらじゅうに鱗粉を撒き散らしている
そんな事をしなくても、僕にはお前が見えているというのに
だが、それをわざわざ伝えはしなかった
なぜなら、いつかの僕もそんな事をしていたという事を、
不意に思い出してしまったから

(とくとくとく…とくとくとくとく…とく…)
頭の中に何かが注ぎ込まれている
こんなに時間をかけているのに、ちっとも満たされやしない
それどころか、その儀式が始まる前より着実に酷くなっている気さえする
僕は苛立ちに駆られて、誰だかわからないそいつに文句を言ってやろうと思った
然し、部屋には僕しかいなかった。僕が攻撃している相手は、僕自身だった。
正確には、部屋には夥しい数の僕が遍在していた

あれから蝶を見かけなくなった、僕は不幸でも幸福でもなかった
あらゆる感情も、あらゆる言動も、あらゆる現象も、
孤独の代名詞だと教えてくれたあの蝶を
僕は唯一の盟友だと信じて、いつまでも、馬鹿のように反芻していた

残影

残影

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-03

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