恋とあんまん

 むしになりたかった、夏のおわりに、わたしは、せんせいがうつった唯一の写真を、切り刻んで、燃やしました。
 森は、果たしていつ頃から、眠っているのか、宇宙の、どこかにある、生命体が存在する星では、もしかしたら、わたしたちの分身が、のうのうと生きているかもしれなかった。こちらは、いま、すこしだけ大変な世の中で、あちらは、連動せず、なんだかいつも平和、みたいな世界で、もしかしたら、せんせいが、せんせいのままで、肺呼吸をしているのではと、想像します。いちごのショートケーキは、きっと、ちがう星でも、あたりまえみたいに美味しいはず。
 ちょっともう、恋とか、つかれてしまって。むしになりたい、という願望は、どちらかといえば、その場のノリ、みたいな、と、笑っていえればいいのだけれど、わりと本気で、あの夏はしんけんに、そう思った。せみ。せみがいい。ほんとうはちょうちょがいいけど、身の程知らず、身の程をわきまえろ、という感じ、じぶんでいうのもなんだけれど、だから、そう、せみがいいなって、そのときはかんがえていた。かんがえているあいだに、夏は去って、秋が訪れて、いまはもう、冬で、わたしはあいかわらず、気を抜くと恋をしている、にんげんのまんまだ。そもそも、にんげんでないものになるには、どうすればいいのか。いっぺん、しぬ?
 でも、そういうのはしばらくいいかなって、むしになるのも、しぬのも。
 だって、冬。コンビニのあんまんが、愛しい。

恋とあんまん

恋とあんまん

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-01

CC BY-NC-ND
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