腹の中

 道端に捨てられていたあの子の身体からはらわたを抜き取って、家に持ち帰った
 そして冷蔵庫に適当に仕舞われていた屑野菜と一緒に鍋にして食った
 ことこと煮込んで食ったのだ

 あの子の肉は硬くて不味かった、とても食えたもんじゃなかった
 それでも咀嚼して飲み込んだ、屑野菜と一緒にあの子の肺腑を飲み込んだ
 鍋が空っぽになった頃には、出来損ないの風船みたいに腹が膨れていた

 腹の中に入ってしまえば、もうあの子のことは何一つ思い出せない
 明日には残り滓が尻の穴から捻り出され、来年には血肉の一片も残っていやしない

 あの子の名前なんてもはやどうでもよく
 あの子の容姿なんてもはやどうでもよく
 あの子の人生なんてもはやどうでもよく

 気にしたところで今はもう腹は中 すべては腹の中

 恨まれなんかしない 呪われなんかしない 睨まれなんかしない
 おまえだって食っているだろう、今だって箸を持っているだろう
 どうせどうせ、行き着く先はみんな腹の中

 あの子の記憶なんてもはやどうでもよく
 あの子の感情なんてもはやどうでもよく
 あの子の愛憎なんてもはやどうでもよく

 そうだ、どうせどうせ、みんなみんな腹の中
 すべては腹の中

腹の中

腹の中

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-12-01

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