やさしいの小舟

 ふたりぶんの重みで、けれど、浮いている。
 カステラのきいろにみせられた、木曜日の夜に、弔う、花と、虫。冬がもう、すぐそこにいて、つらいことはすべてかなぐりすてなさいと、やさしいだれかにささやかれる。きみのくちびるが、細雪となって霞んでゆくのを、ぼくは、いつくしんで、もてあまして、はかなんで、むなしく思う。つめたいアスファルト、じゅうこうな首都高速、つらなりにじむ、赤い光、テールランプ、恋のはじまりとおわり、あいをしんじているひと、あいにうらぎられるひと。
 夜の始発と、終着。
 二十一時の喫茶店で、ホットケーキを食べてる。
 プリン・ア・ラ・モードを、きみは、じっくり味わっているので、すべてにおいて、なんだかいま、この瞬間、幸福、みたいな感じが、ここちいいときもあれば、むなくそわるい日もある。ハッピーになれる元気ソング、という音楽番組の特集に、すこしだけ、すくわれる夜も。ダウンロードしてまで聴くほどでもない、そういうの。
 淡く、慎ましやかに、そこにあるもの。

やさしいの小舟

やさしいの小舟

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-26

CC BY-NC-ND
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