晩秋譚

寒空の下を俯きながら歩いていた
全身の感覚が失われ、死骸になっていくようだった
前方には眠らない街が
まるで一つの生き物のように蠢いていて
後方には寝静まった街が
それも一つの生き物のように横たわっていた
街は死なない、と不意に思った

私は無心に ネオンが灯る街の方へと歩いていった
時折、思い出したように風が吹いては
私を責め立てるかのように 執拗に鼓膜を顫わせた
こいつは断罪しかすることが無いのだろうか
然し、お互い様か、と思い、それ以上は何も言わなかった
最近の私は、何をしても白々しかった

居酒屋が立ち並ぶ路地に差し掛かると
何故か太宰の美男子と煙草を思い出した
私は酒呑みでも喫煙者でも無かった
ただ、下戸と卑下するほど弱い性質でも無かった
私は傍の自動販売機で缶のホットコーヒーを買い
悴んだ手のひらにあてがい、夢中になって暖を取った
蓋を開け啜ると、体温のように温く、どこか物寂しい味がした

繁華街に出ると、まばらではあったが、人の姿が確かにあった
私は説明のつかない相反する感情を同時に抱いたが、それらが何であるのか判らなかった
何とも化合しないネオンの光は独立していて、孤高を誇示しているように思えた
風がまた強くなり、温めた手も悴み始めた
至る場所に存在する生物の生活の影に、これからも勝手に安心したり、勝手に打ちのめされるのだろうと思った
空を見上げると、他の全てを凌駕するほど美しい月が夜の紗幕に張りついていて、それが目に焼きついて、いつまでも離れなかった

晩秋譚

晩秋譚

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-23

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