待っている
ぬいぐるみだ、と思って、でも、ほんとうにぬいぐるみだという確証はなくて、たぶん、けれど、うごかないから、きっと、ぬいぐるみだった。公園のベンチに座っている、くま、の、ぬいぐるみ。だれかのわすれものだろう、ぽつんとさびしげにしていて、もしかしたら、持ち主も、いまごろかなしんでいるかもしれない。泣いているかも。まさか、わざと置いていった可能性はあるまい、と言い聞かせながらも、世の中、ふつうに、そういうことはあるのも承知している。ひとは、あんがいと、だいじにしていたものを、いともかんたんに手放してしまう。手離せる。ぼくは、十九時、ブランコをこぎながら、きみの、予備校がおわるのを待っている。すこしだけ、忠犬みたいな、感じ。
ここさいきんの、星は、なんだか煮崩れを起こしているようだと、きみの家のフクロウが言っていた。
ソフトクリームやさんが、ある、きみが通う予備校と、ぼくが待つ公園のあいだに、あそこでは、ちがう星からきたという、にんげんばなれしたうつくしい男のひとが、ソフトクリームをまいている。銀色の髪。アラザンをまぶしたみたい。
インターネットのなかのひと、ぜんぜん、ほんとうのなまえも、かおもしらないひとを、ころしたことがあると、クラスの女子が懺悔していた。ころしたといっても、べつのなまえでまだ生きているんだけど、あの、わたしとつながっていた頃のあの子は、もう、この世にいないのよ。懺悔、というより、都合のいい言い訳、にも聞こえた。
映画を観たいなぁと思う。流行りの映画じゃなくていいから、いっそ、くそつまらないのでもいいから、映画を、映画館のおおきなスクリーンで観たいなぁと思いながら、映画館の前のポスターをながめて、おわる。
ブランコをこぐ。
いきおいよくこいで、足で、夜空の月を蹴るように。
こぐ。
待っている