だれかを好きになること

 恋のおわりに、だれかのたましいは静かに、うちゅうのはてに去ってゆくので、ぼくらは、ときどき、愛をわすれた生きもののようにして、心臓をたいせつにしている。どきどきすることは、すなわち、急速な死への下降、とか。やさしいニュースなんて、もう、この世には存在しないんだっていう、あきらめは、焼きすぎたトーストにのせたバターが、むなしくすべってゆく感じに似ていて、自動販売機で買った、あったかいはずのミルクティーが、まったくもってぬるかったときのそれと、等しい。
 こわいものは、にんげんで、でも、うつくしいのも、にんげんで、いろんな生命体のなかで、そこそこ恵まれているのも、にんげんだから、と、はんぶん怯えながら言ったのは、ドーナツやさんにいた、ゆうれいだった。オールドファッションをたべてた。無難、と思ったけれど、ぼくは、そのゆうれいを、すこしばかり愛しいとも思ったよ。その感情は、うるおいをなくした砂漠にふる、雨みたいだった。だれかを好きになるって、もしかしたら、そういうことかもしれない。
 小春日和のこと。

だれかを好きになること

だれかを好きになること

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-09

CC BY-NC-ND
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