だれかを好きになること
恋のおわりに、だれかのたましいは静かに、うちゅうのはてに去ってゆくので、ぼくらは、ときどき、愛をわすれた生きもののようにして、心臓をたいせつにしている。どきどきすることは、すなわち、急速な死への下降、とか。やさしいニュースなんて、もう、この世には存在しないんだっていう、あきらめは、焼きすぎたトーストにのせたバターが、むなしくすべってゆく感じに似ていて、自動販売機で買った、あったかいはずのミルクティーが、まったくもってぬるかったときのそれと、等しい。
こわいものは、にんげんで、でも、うつくしいのも、にんげんで、いろんな生命体のなかで、そこそこ恵まれているのも、にんげんだから、と、はんぶん怯えながら言ったのは、ドーナツやさんにいた、ゆうれいだった。オールドファッションをたべてた。無難、と思ったけれど、ぼくは、そのゆうれいを、すこしばかり愛しいとも思ったよ。その感情は、うるおいをなくした砂漠にふる、雨みたいだった。だれかを好きになるって、もしかしたら、そういうことかもしれない。
小春日和のこと。
だれかを好きになること