幸せの毒
結婚式だ、と思ったとき、となりで、しろくまが、きれいだね、と言って、幸せそうに微笑んでいる純白のふたりを、目を細めて見つめていて、ぼくは、そうだね、と頷きながら、しろくまの手に、いま、一瞬でもいいから、触れたくって、でも、それは、ゆるされないことだろうと、きっと、ずいぶん前から、あきらめている。
よく晴れた、日曜日のことで、町のすこしはずれたところにある、ちいさな教会は、きょう、この町でいちばんの幸せを湛え、ふたりの未来が、末永く続くことを祈るかのように、厳かな鐘を鳴らす。陽光が射し込み、色とりどりの花びらが舞うなか、ふたりは、まぶしくかがやいている。あたたかな拍手。やさしさにみちた歓声。
あふれてくる。
うつくしいもの。白く、明るいなにか。
反して、ぼくのあしもとから、はいあがってくるのは、みにくいもの。黒くて、暗いもの。
拒絶している。
ぼくのからだが、あの、うつくしい光景を、あれが世の道理であるかのように、おこなわれているものを、
(だいじょうぶ、あれがすべてではないよ)
という囁きと共に、視界を、歪ませてゆく。
ねぇ、しろくま。ぼくは、きみと、しあわせになりたいのだけれど、きみは、どうだろう。
紙面上での契約も、誓いの言葉も、ゆびわも、べつにいらなくて、ほしいのは、ただ、純粋に、きみだけだ。
ぼくは、しろくまの横顔を見ながら、幸せそうだね、と呟いて、しろくまは、まるで、世界から祝福を授かったかのように光るふたりのことを、じっと見据えたまま、これから幸せになるんだよ、と言う。
きれいだ(みにくい)
しあわせになりたい(なれるかな?)
ゆるしてもらえる?(だれに?)
さっきから、もう、ずっと、指先が冷えている。
幸せの毒