恋に沈む
くろい、と思ったのは、公園の池、水面、お習字の墨を流したみたいで、じっとみつめていると、すいこまれてしまいそうだった。
深淵。
おもしろくないテレビが、ときどき、電波にまじってくるし、しらないひとの被害妄想が、いつのまにか、きみのこころを、静かに、ちょっとずつ齧るみたいに蝕んで、もう、せかいって、どうしてこうもやさしくない、と思いながら、わたしは、都会のネオンにひかりをうばわれた、夜空の星を、さがしている。
かろうじて、白い、点。
もしかしたら、きみを救えるのは、火星かもしれないから、とりあえず祈っておくね。わたしたちのことを、胸の大きさや、髪の長さや、おしりのかたちで分別するひとびとが、むかしは、わかりやすく存在して、いまは、いないようにみせかけているけれど、ほんとうは、いるんだよって、商店街にある中華料理屋さんの、二階に住んでいる、お化粧の濃いお姉さんが云っていた。みじかいスカートからのびるあしは、細くも太くもなくて、お客さんからいい肉付きだねって褒められることを、お姉さんは、よろこんでいて、わたしは、じぶんの、やわらかいんだか、かたいんだが、よくわからない、なんだか中途半端な弾力のふとももを、制服のスカートの上から、つねってみた。
肉だ。
まぎれもない。
飛行機の音がきこえるのは、たぶん、冬だから。空気が澄んでいるからという理由で、夜でもにぎやかな街の、喧騒をかいくぐって、伝わってくる。日に日にこわれてゆく、きみが、わたしの足の爪に、真っ赤なペディキュアをほどこすとき、わたしは、おんなであることを歓喜し、きみではないだれかのものさしにはかられることを、嫌悪する。つまり、恋でしょ。
恋に沈む