夜を歩く
かえりみちをわすれた、こぐまと、手をつないで歩く、夜の、高層ビルが建ち並ぶ街は、なんだか、森のなかのようだった。あの角のジェラートやさんは、あまいにおいが、ひんやりとした空気にまじって、すこしだけ、冬の夕暮れに似ていた。ぼくは、こぐまがときどき、いまにも消え入りそうな声で泣くので、そのたびに、だいじょうぶだよ、と笑って、でも、内心では、なにがだいじょうぶなのだろうと思いながら、あてのない旅をしている気分になっていた。
にんげん、という生きもののことは、もう、次第に、あやふやになってきていて、果たして、ぼくは、なにものだったのだろうとかんがえる時間が、増えたように思う。こぐまは、花が好きなのか、無機質な街にきまぐれに点在する、花壇の、夜でも咲いているなまえもしらない花をみつけては、足を止めて、ぼんやりとながめている。以前、こいびとだったひとが、じつは、他人の血を吸って生きている系のひとで、ラブホテルのかんばんをみると、ぼくのあたまはかってにそのひとのことを、思い返すので、けっこう厄介だなぁという感じ。意識を失わないていどに、吸われた血。高級ホテルのようなうつくしさだったり、これぞというくらいの無駄な派手さだったり、いやに実用的な、つまりは、それを行うためだけにつくられた内装だったりと、いろんなホテルがあったけれど、どのホテルでも、こいびとだったひとは容赦なくて、やさしかった。
とちゅうのコンビニで、こぐまに、ジュースを買ってやる。
とちゅう、とは、いったい、どこに向かっているとちゅうなのか、明らかなゴールはなく、そもそも、スタートしているのかどうかすらわからない、宙ぶらりんの、ぼくら。
こぐまはメロンソーダを、おっかなびっくりな表情で、ちまちま飲んでいる。
ぼくはのむヨーグルトのキウイ味を、なんでこれを選んだのだろうと思いながら、じゅうじゅう飲んでいる。
街はただ静かに、そこにいる。
夜を歩く