みんな と わたし と きみ

 おわらないのは、ゆめ、くりかえし再生される、いつかの記憶が、埋没したとき、わたしの心臓のかたわらで、きみが、やすらかな寝息を立てる。
 水彩絵の具で塗ったような、空の青に、秋の深まりと、もうまもなくやってくる冬の気配。
 現実にいないひとびとと、恋、なんてものをする世であって、それを、個性とするならば、きっと、いずれこの世界は、なんでもゆるされるものとなるだろうと、せんせいは語る。わたしは、現代文の授業が、いちばん好きで、でも、せんせいの倫理の授業も、それなりに好きで、教室が、ストーブであたたまる頃の、だいたい二時間目、三時間目あたりの、まったりした空気に、ときどき、ねむたくなる。あの、ハムスターが、冬の寒さに凍えて、仮死状態になってしまわないために用いる、ちいさなホットカーペットみたいな、ああいうのにごろんと寝転びたい、きもちで、三時間目の数学を、なんとはなしにきいている。(つまりは、ほとんど、きいていないということ)
 ゆうめいなアイドルグループを、みんなが好きとは、かぎらないよなぁと思う瞬間の、じぶんだけちょっとまわりとはちがう、という感覚は、けっこうな自己満足で形成されていて、でも、そういう個性もだいじでしょうと思いながら、わたしは、おそらく、クラスメイトはおろか、この学校のだれもしらないような、ぜんぜんゆうめいじゃないバンドを聴いて、うっすらとした優越感に、ひたっている。
 わたしのなかにいる、きみは、どこかの、頭痛薬みたいに、はんぶんはやさしさでできているって、信じている。もうはんぶんは、たぶん、雑多なもの。だけど、ひとつではないからこそ、わたしのなかで、きみは、きみとして、生きているのだ。
 冬が迫ってくると、夜、鹿の鳴き声がするの。
 かわいそうで、かわいくて、なんだか好き。

みんな と わたし と きみ

みんな と わたし と きみ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-04

CC BY-NC-ND
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