プルシアンブルー

僕は「ちょっと変なネコ」だ。

夜空に溶けるプルシアンブルーの毛並みで、
胸や腹、しっぽの先、背中の大きな翼は真っ白だ。
満月のような金色の瞳は、ほかのネコと一緒だと思う。

昨日の夕方、運悪くカラスにつつかれているところを、
リラという少女に助けられた。


「助かった。礼を言う。」
僕が喋ると、少女は目を丸くする。

「え、喋った…?しかも羽根が生えてる…?!」
驚くのも無理はないだろう。
ネコは普通、ニャーと鳴くものだし、翼もない。

「驚かせてすまない。僕はレオンだ。」
「えっと…レオンっていうのね?私はリラ。」
「リラというのか、キレイな名前だ。」
彼女は名前の通り、リラの花のような美しい髪色の少女だ。

「あ、ありがとう…。あの、どうして羽根が生えているの?」
「あぁ、これか?空を飛ぶためだ。」
バサバサと動かすと、リラはうれしそうな顔をする。

「えーっと…とりあえず、キズの手当てしてあげるから、うちにおいで。」
「すまないな、リラ。恩に着る。」

リラの家は近く、僕が空を飛んでいけば3分程度。
赤い屋根の、小さな家だった。

「消毒するから、ちょっと我慢してね。」
「うっ…イタイぞ…。」
「ごめんね、でも消毒はしないと…」

リラがそう言っている途中で、僕の腹の虫が情けない声で鳴いた。

「あら、おなかすいてたのね。今食べるものを用意してあげる。」


椅子に座って待っていると、温かいスープとパンが出てきた。

「こんなものしかないけど、いいかな?」
「十分だ、助かる。」

僕は夢中になって食べた。
このスープはジャガイモのポタージュだな。
パンを浸すと非常に美味い。


気が付くと、外は暗くなっていたので、
手当てと食事のお礼として、リラを空の旅に連れていくことにした。

「さぁ、僕の手を握るんだ。」


白い翼を大きく動かすと、どんどん月に近づいて行く。


「リラ、どうだ?」
「すごい、夢みたい…。」

そうだ、これは夢だ。


三日月のベッドにリラを寝かせて、そっと眠りにつくのを見守った。
彼女が眠りについた時、僕はプルシアンブルーの夜空に溶け始める。

「おやすみ、そしてさようなら。お前のことは忘れないぞ、リラ。」

彼女が目覚めたら、僕は完全に消える。
そして、キラキラとした余韻で満ち溢れることだろう。

どうしてかといえば…僕の存在も、彼女の夢でしかないからだ。
僕は、リラの夢で生まれた「ちょっと変なネコ」だ。

それだけで、十分だ…―――

プルシアンブルー

プルシアンブルー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-02

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