シュルテの花売り

私はお花屋さんのお仕事をしています。
特に「フワリラ」というお花が大人気。
遠い世界のお友達がくれた種から、私が丁寧に育てているものです。

今日もフワリラの花を売っています。
花言葉は「かけがえのない存在」。
素敵な花言葉だなぁ、ってうっとりしてしまいますよね。
八重咲きでピンクや白のお花が咲いて、
とっても甘い香りがするので、私はお部屋に飾ったりしています。

種をくれたお友達は、旦那さんから
プロポーズの時に100輪のフワリラをもらったそうです。
そのときのお花はおいしくいただいたらしいけれど、
また持ってきてくれたから今度は種ができるまで大切にしたんですって。

私の住む街では、ケーキの飾り付けに使うのが流行っています。
特に、ウェディングケーキに使われているみたい。

…あっ、ごめんなさい。
お花のお話ばっかりで退屈でしたよね。

私はシュルテという街でお花屋さんをしている、黒ネコのスイといいます。
よく、ぽろぽろ泣いてしまうの。
涙を流すたびに瞳の色が、淡い緑や水色に変わるので、
なんだか「ポロンテ」の花の色に似ているね、といわれます。

「ポロンテ」というお花は淡い色合いが素敵で、
集まって咲いている姿から、花言葉は「素敵な家族」です。

私も、素敵な家族が欲しいな。
ううん、パパとママも素敵なんだけど、
私はちょっと欲張りだから、旦那さんも、その人の子供も、欲しいな…。


ある日、キレイな色の毛並みをした常連さんがやってきて、こんなことを言ったの。

「花束を作ってくれ。色や種類は君の好みでいい。」

このお客さんがそんなこと言うなんて珍しいな、って思ったけれど、
私は大好きなフワリラとポロンテ、
それからリューラとシュリレの花束を作ったわ。

「お客様、こんな感じでいいですか?本当に私の好みで作っちゃいましたよ?」
「いいんだ、それは君に渡すためのものだ。」
「えっ…?」

私、どういう意味なのかしばらく理解できなかったの。

選んだ花の花言葉は…
『かけがえのない存在』
『素敵な家族』
『私と結婚してください』
『永遠のしあわせ』

「あの、お客様…?」
「僕は君が目当てでこの店に通っていた。…好きだ。」
「え…?………えーーー!?」

私、ひっくり返って気絶しちゃったみたい。
気がついたら、窓の外はオレンジ色に染まってた。
窓の横にあった椅子の方を見たら、お客様は居眠りをしていたから、
何度見てもキレイな色の毛並みだな、って思って顔を見ていたの。
そしたら、突然大きな白い翼がバサッと動いて、私を包みこんだ。

「あっ、あのっ…。」
「大丈夫か?僕は、君のことをずっと見ていた。」

ゆっくりと瞼が開き、満月のような金色の瞳が、私を見ている。

「やさしい顔で花を売っている姿が、本当に好きなんだ。」
「そうなの…?」
「同時に、花を売った後に泣いている君の瞳もキレイで好きだ。」
「泣いてるの、見てたの…?」
「君は花屋から花が売れていくと、さみしくて泣くからな。そこがまた好きだ。」
「恥ずかしいです、お客様…。」
「いちばん好きなのは、なによりうつくしい君の心だ。」
「えっ…」
「君は花や街の人、そして、家族を大切にしているだろう?僕にはわかる。」

なんで知ってるのかな?って思ったけれど、
私はなんだかうれしくて、ぽろぽろ泣いちゃったの。
そしたら…

「今の君は最高にきれいだ。僕と結婚してくれ。」

名前も知らないお客様の翼に抱き寄せられて、
そんなことを言われるなんて…

「答えは急がない。僕はこれから仕事がある。」
そういえば、この人の仕事って何だろう…?

「ちょっと夜の国に行ってくる。朝になったら帰るから、ゆっくりしていなさい。」
「あの、お客様…お名前を教えていただけませんか…?」
「僕の名前か?レオンだ。」
「レオンさん、夜の国…?で何をしているのですか?」
「…毎晩、誰かの夢に入り込んで、楽しい思いをさせている。」
「そう、なんですか…。じゃあ、今夜も?」
「そういうことだ。では、しっかり休むんだぞ。」
「…はい!」

レオンは大きな翼を羽ばたかせて、部屋の窓から去っていった。


私、夢でも見てたのかな?って思って、
ぎゅーっとほっぺをつねったら痛くて、またぽろぽろ泣いちゃった。

「レオンさん…」

君に、と、くれた花束を、そっとそっと抱きしめた。
レオンさんの翼で抱きしめられた時のように、壊さないように、やさしく。


しばらくすると、腕の中があたたかくなってきて…

「レオン…さん……?」

ゆっくり目を開けたら、朝になっていたの。


「さぁ、答えは出たか?教えてくれ、スイ。」

えっ、名前呼ばれた…?!
うれしい…。
あっ、また涙が…。

「…どうした?…嫌なら、断ってもいい…だから、泣かないでくれ。」

思わず、叫んだ。

「違うの…!うれしくて泣いてるの…!」

レオンさんはちょっと驚いたような顔をした後、翼で私を抱きしめて…

「愛している、スイ。僕のお嫁さんになってくれ。」
「…はい!」


今日。
私の素敵な家族が、ひとり増えました。
新婚旅行はフワリラの原産地に行く予定です。

シュルテの花売り

シュルテの花売り

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-02

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