丸い月の夜に

 いつものように、わらって、ないて、おこって、息をしている。
 あのこたち、ふつうにやさしいのよって、となりのお姉さんは微笑み、イヤリングが揺れる。だれもいないと思っていたのに、真夜中の公園には、おおかみたちがいて、でも、おおかみたちはどことなく、おおかみっぽくなくて、そうだ、なんだか、にんげんみたいなのだと、ぼくは思いながら、コンビニで買ったピザまんをたべている。ハンカガイ、と呼ばれる一画では、さいきん、異種交流が盛んで、世の中、異種婚が流行っているそうなので、そういわれると、にんげんにもみえるおおかみたちが、こうやって公園に集っているのも納得の気がする。ブランコをこいで、ジャングルジムにのぼり、芝生に寝転がり、ベンチでお茶をのんでいる。となりのお姉さんは、スマートフォンの青白い光に照らされて、ときどき、歌を口遊む。公園の池には、わにがいる、といううわさをきいたことがあるけれど、まだ逢ったことはない。逢ってみたいなと思うし、こわいなとも思う。ピザまんのチーズが冷めて、ちょっとかたまったようになっているのは、きらいではない。
 ぼくのあしもとで、野良猫が眠っている。
 おおかみと恋愛、という可能性を想像してみて、ぼくのなかで、なきにしもあらず、という結論に達する。
 となりのお姉さんは、微妙に音痴だった。

丸い月の夜に

丸い月の夜に

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-11-02

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND