いつかの終末

 ゆるされたい気分で、紅茶を飲んでいる、二十三時の、アパートの窓から、近所にある踏切の、カン、カン、カン、という音がきこえて、赤いランプの点滅とともに、ほどよくまとわりついていた眠気を、かき消す。
 十月の夜風は、なんだかすこし、目に染みて、マグカップの底でとけた砂糖が、蜃気楼のように揺らめく様子を、わたしは、うやむやなものを抱えているみたいな感覚で、みていた。
 街は、日々、一ミリずつ、破滅へと向かっているのだと、生成色の、袖に細やかなレースが装飾されたワンピースを着たひとが、神さま気取りで告げる。ワイングラスみたいに薄く、落としたら一瞬で壊れる儚い存在が、生命体、というものに対して、しかし、街、というのは存外に冷ややかである、とも。時代に呼応して膨らみ萎んでいく等の過程のなかで、街は、なすがまま、誰かによって生き永らえるために改造され、不都合があれば容赦なく破壊され、望まない新たな要素を孕まされ、枯れ果てたとならば棄てられる。生命体が、街を、ただの街として扱うのだから、街が、きみたちを、ただの背景としてあしらうのは、当然のことだとばかりに、ワンピースのひとは話していた。

(なんだろう、ときどき、うちゅうになりたい)

 みえない手に、首を絞められていた夢から醒めて、朝、今日は土曜日だと思ったとき、緩やかに流れ出す、血液。

いつかの終末

いつかの終末

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-24

CC BY-NC-ND
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