真夜中のタイムリープ

 もう、あとすこしで、みえる、解剖された、冬の内部、というものが、いやにやさしくて、それは、たとえば、あたらしく生まれた恋人みたいだと、わたしは思っている。高速道路の、サービスエリアの、フードコートで、真夜中に、しょうゆラーメンを食べたことがあるけれど、あのときほど、しょうゆラーメンがうまいとしみじみ感じたことは、きっと、これから先、あるかどうかもわからないかもしれない、なんて、断言できない、曖昧さを抱えながら、わたしは、しろくまが運転する車の助手席から、通り過ぎてゆくサービスエリアの入り口を、みていた。切り刻まれて、秋が、はしっこから落下してゆく。しろくまと出かける夜は、星の鳴き声が、きこえる。幽かに。
 図書室でのこと、秋と、冬のあいだの、季節の、学校の図書室の、あまりひとの立ち寄らない、分厚くて古びた本が並べられた本棚の前が、わたしの定位置だったし、教室、という閉鎖空間は、わたしを圧死しようとしていたし、先生は、ばかのひとつおぼえみたいに、おとなぶっているだけだったし、クラスメイトはみんな、同じ顔をした、誰かの従者だった。ひとりだけ、神さま、みたいなひとが現れると、学校生活では、それがすべてだったように思える。しろくまにいうと、カリスマってやつですかと、なんだか、しろくまに不釣り合いな単語が、しろくまの口から出て、わたしは、ふっ、と小さく笑ってしまった。カリスマ。
 なんでもいいけれど、支配者、イコール、独裁者、とは限らないなぁって、ぼんやり考えたことがある。
 考えて、べつに、なにかを導き出したわけでもなくて、ただ、ひまつぶしみたいに、考えただけ。
「タイムリープという現象に、憧れます」と、ハンドルを握りながら、とつぜん、そんなことを言い出すしろくまの横顔を、わたしはちらりとみて、それから、すぐに、目を閉じた。高速道路の、オレンジ色の街灯は、いつも、ちょっとこわい。

真夜中のタイムリープ

真夜中のタイムリープ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-21

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND