十八時の恋
めくる、ページを、そっとめくるごとに、べつに、感動するような物語でもないはずなのに、文章が、にじむ。
きみの心臓を模ったものに、触れた。
ハートを奪う、という行為を、言葉通りできるような世の中に、なってしまって、みんな、好きなひとの心臓の模造品を、もっている。夕方の、テレビの、ニュース、その日に起こった、かなしいできごとや、いたましいできごとを、淡々と伝える、ニュースキャスターの、ひとの、目が、ときどき、こわい。べつに、ぼくのことを、みているでもないのに。ぼくのなかに、ひそかに棲まう、わたし、という人格のことを、じっと、観察しているわけでも、ないのに。
その本読んだら貸してよと、包丁を器用にあつかい、じゃがいもの皮を剥いているきみがいって、ぼくは、いいよと答えた。
きみは、ぼくのにせものの心臓をみるなり、いいかたち、と微笑んで、ぼくたちは、恋人になった。
おわりはじめた秋の、すきまから、冬がのぞいている。ほころびがおおきくなると、冬が、どんどんと、あふれだし、秋は、のみこまれてしまう。むりやりに、糸をひっぱると、星だって、ほどけていってしまう。手編みのセーターみたいに。
明日の天気予報を、すこしだけ、やさぐれた気分で、みつめた。
ページのうえでくりひろげられる、月並みな恋模様が、どうしてこうも、まぶしい。
十八時の恋