詩、点々
森と深海魚
手の指の先にときどき星の体温が伝わってくる左手のひとさし指となか指のあたりにガラス細工みたいなきみが燃える森に唱える祈りは物語となり深海魚の物悲しさに似ていて二十六時の風は泣きたいくらいに冷たかった
人生でいちばんうつくしい夜
都会のひとびとにはせなかに白い羽をもっているひとがいて星はまだやさしさを湛えたまま生きているのだなぁと先生がしみじみ呟く今夜がもしかしたらこれから幾度となく越えてゆく夜のなかでいちばんうつくしい夜になるかもしれないと思いながら左耳のピアスに触れる
秋夜の憂い
夏がおわったことをまだすこしだけさびしいと思う秋の夜のひやりとする空気を肺に吸いこんで星をかぞえるていどには退屈な時間をベランダで過ごしているあいだに最終電車に揺られているであろうきみのことを想って三秒だけ目を閉じるテーブルのうえには飲みかけのコーヒーがふたつ静かに
家路
にぎやかな街がいつか燃え尽きる頃にきみが深い海の底からそっと這い上がるように目を覚ますのが未来ならば明るいだけのそれも悪くないと思う夕暮れの電車からみる景色は次第に夜のなかに蛇腹に折りたたまれてゆく寂しさを忘れるためのコンビニのカフェモカ
星のパッチワーク
縫いあわせるなら金色の穂と碧い海 緑鮮やかな庭 パッチワーク 夜みたいなきみの髪を糸におわらないものを紡いで街の片隅で丸まり眠る猫に慈しみを差し出す十三時はたおやかに過ぎてゆき微睡む午後に寄りかかったまま少しだけ星の内部を垣間見る シエスタ
過護
寝息がたとえば真夜中の空気にとけて仄かな甘さを漂わせる頃に銀河にあるひとつの惑星が地球からのにくしみを電磁波として受信して破裂する無惨にも無垢で無関係なものがなにかしらによって壊されるという現実を目の当たりにしたら花を編みこんだヴェールで不鮮明にしてあげたい きみへ
明日に飛ぶ
野原で眠る女の子たちのそのミルク色をした肌に生けられたように咲く花が枯れる頃に冬はやってくる明日をイメージして飛ぶのは死をおそれないきみでぼくの薄く白い爪にそっと触れては微笑み夜の街を見下ろす二十四時にぐちゃぐちゃにした愛だけ擦りつけていって
それは恋の終わり
春の呪いだった砂浜からみた夜明けの海に生命体だけがゆるされたように光る頃にきみのからだに纏わりついていたぼくのかなしみがしゅるりと音を立てて消えた夏に捨て置いたものが秋には腐って爛れて冬の冷たさに焼かれる
詩、点々