Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-3b>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。本作品に登場するキャラクターの性格や行動は実際のゲームと多少異なる場合があります。

aパート:ステラ視点 bパート:ルーナ視点

<<一日目-3b>>  ご挨拶

私の名前はルーナ。「そうは見えない」と言われたりもするけれど18歳。
どっちの意味かは尋ねたことがないけれど、よく童顔とも言われるからきっと年下に見えるのよね。きっと。
幸い料理酒を買うのは止められたりはしなかったから良いけれど。
え?そもそも18歳でお酒はダメ?
そう言えばそうだっけ。

アパートの玄関を出て、少し傾斜のある道を北へ登って行く。
少しずつ木が増えてきて、道が途切れると目の前に湖が現れた。
「きれい…」
遠目に見える湖の水は澄んでいて、赤く黄色く色づく葉が紺碧の湖面に入り混じりモザイク状に揺れている。どうやら向こう岸にある森林とその隙間にはまりこんでいる温泉旅館風の建物が湖面に映っているようだ。
散歩して一周してみたい衝動に駆られたけれど、わりと広そうな湖だったからそれはまた今度にしよう。
なにごとも、諦めが肝心。
湖のほとりをほんの少し散歩して、小さな橋が見えたら右手に曲がる。
川沿いに南東に下るにつれて『住宅街』感が色濃くなっていく。川のこちら側と向こう側の景色にも傾向の違いが表れていて面白い。
中心街へ向かう道の大きな橋がかかるところまで来るともうお家がぎっしり詰まっていて、ところどころにチェーンのファミリーレストランやコンビニエンスストアがあったりするぐらい。
車の多いその道に沿って南西へ歩くと件の高級マンションが近付いてきて、他の集合住宅にも「三高平南」と名を冠したものが増えて行く。道路を挟んで反対側に電気屋さんを、こちら側に少し大きめの洋服屋さんを見つけた。
明日はここに買い物に来ようかな。いろいろ買わなきゃ。
頭の中の地図にしるしをつけて進んでいく。この道の歩道はほど良く広くて歩きやすい。
――土の道の方が好きだけどね。
マンションより手前で右手に折れ、住宅地の中へ戻って行く。途中にスーパーがあったり酒屋さんがあったり、郵便局があったり。
進むにつれて空き地や田畑が入り込むようになり、このあたりかなと思ったあたりでもう一度右に曲がる。少し進むと新居のアパートが見えた。
プチ探検しゅーりょー、である。

どこかチョコレートを連想させるこげ茶色の外壁に、生クリームを連想させる白文字がアパート名を描いている。
その名も「Appartamento Mitaka-daira」。
カタカナ交じりの日本語だと「アパルタメント三高平」になるのかな。
名前が外国風の――イタリア風の?――割にはかなり「日本のマンション」らしさが溢れている。ううん、もしかしたら名前に無理やり異国情緒を混ぜ込むそれ自体も日本風なのかもしれないけど。
部屋に戻り、一息ついて見つけたスーパーへ。
あちこち舗装された道ばかりだったから、少し足が疲れてる。
飛んでいけたら、良かったんだけど。
ちょっとした空想を首を振って払いのける。
本当はもう少しゆっくりしたいけれど、あんまりのんびりしていると日が沈んじゃう。
もっと近くに買い物できるところがあるかもしれないけど、探している間に真っ暗になっても嫌だから。

アパートの玄関ホールから道路に踏み出した瞬間、目の前を小鳥が低く横切って行った。
掌を掲げても、水滴が落ちてくる様子はない。
空を見上げても、影の濃くなった雲は少ない。
雨が降る感じはしないけれど。
遠くから着実に夜の気配がやってきていた。
ちょっと急がなくっちゃ。
肩にかけた鞄をくいっと引きあげて、さっきより足早に歩き始めた。

「ちょっと買い物しすぎちゃった」
帰り道、ため息と一緒に呟く。
まわりには誰もいないから、安心してひとりごと。
あれもこれもと必要な物を目に着くたびにかごに入れていたら、気付けば持ってきたエコバックに収まらない嵩になっていて仕方なく袋を買い足した。
うう…
両手にぶらんとぶら下げるとバランスは取れるけどずっしりと肩に来て、ちょっぴり気分も盛り下がる。
自転車でも買おうかしら。
そしたらきっと、駅まで出るのも隣の街へ行くのも楽になる。

よいしょ、よいしょとなんとか歩を進めてアパートが見えて来る頃にはもうあたりもすっかり暗くなってきていた。近所の公園の街灯がジジジという音と共に明滅を繰り返している。
もしかしたら、先に妹が帰って来ちゃってるかも。
それは嫌だな、と少し思う。
余り見慣れない街で、それでも何とか自分の家に帰って来た時そこが真っ暗だったらちょっとさみしいかなって。
そして何より私が、妹にはきちんと「おかえりなさい」って言ってあげたいの。
もしかしたら妹よりも私の方が、一緒に住んでいた人を無くした寂しさをまだ抱えたまま消化しきれてないのかもしれない。
ふぅ…
ようやく煌々と灯りが照らすアパート入口にたどり着いた。
ふと視線を感じて振り返る。
一定間隔に見える街灯の足元は明るく、誰かが潜んでいる様子はない。
遠くの空で細い月がひとり、笑っていた。

カチャリ
鍵を回すと錠の落ちる音がする。
よかった。まだ妹は帰っていないみたい。
ちょっぴり安心するけれど、すぐに心配になる。
見慣れぬ街で道に迷ったりしていないだろうか。
暗闇に乗じて誰かに襲われたりしていないだろうか。
「大丈夫」
妹は小さいころから良くひとりで森の中へ出掛けては帰ってきていたし、おじいちゃんのお友達に鍛えてもらったおかげで武術の腕もたしかだ。
「それに――」
いざとなれば飛んで帰ってくれば良い。比喩じゃなくって、ホントウに。

妹と私は空が飛べる。
生まれつきの力じゃないけれど、二人とも物心つく年齢の頃にはこの力を持っていた。
妹と私の背中には翼がある。
これも生まれつきじゃないみたいなんだけど、詳しくは判らない。
ただ、この翼の存在を隠そうと四苦八苦したおかげで妹と私が「かわりもの姉妹」と呼ばれる羽目になったと思っているから、あまり嬉しいものじゃない。それも成長すると何だか誤魔化す方法が判ってきたみたいで、あまり村の人たちに気にされなくなったのは楽だったけれど。
だから、もしかすると隠すそぶりも見せなかった髪の毛の色がむしろ呼ばれるようになった原因だった可能性もなくはなかったり?――するかも。
『フライエンジェ』
私たちみたいな存在を、そう呼ぶみたい。
詳しくはおじいちゃんも知らないみたいだったけれど――教えてくれなかっただけかも知れない――私たち二人がイタリアにいたお父さんとお母さんのもとで暮らしていた時にある事件が起こったんだって説明してくれた。
その事件でお父さんとお母さんは死んでしまって、妹と私は生き残った。
ふたりとも背中に翼を生やした存在になって。
どうやらそういう「人が人じゃなくなった存在」っていうのはこの世界に沢山いるみたい。
ジーニアス――見た目は人とそんなに変わらないけれど、人より能力が格段に優れてる。
ヴァンパイア――その名の通り吸血鬼の能力があって、犬歯が目立って大きい。
ビーストウォーズ――身体がいろんな動物の一部(耳とか尻尾とか)に変化してる。
メタルフレーム――身体の一部に武器や金属がくっついてたり変化してたり。
だったかな。私はまだこういう人たちに実際に出会ったことはないけれど、ものの本で読んだ。こういう存在をまとめて「エリューション」って言うみたい。
中でも特に『運命に愛された者たち』をリベリスタって言うらしいんだけど、正直私にはその違いが判っていなかったりする。

そして、妹と私。
フライエンジェ――背中に翼を持っていて、飛ぶことができる。
シンプルだ。
つまり、羽が生えている。それだけ。
なんだか物の本ではそれ以外にもいろいろ能力を持ってて人より凄くってetc って書いてあったりもするみたいだけど、私にはその実感はない。
重たい荷物を持てばやっぱり重たいし、暗闇の中をサーチライトみたいに照らす瞳を持ってたりはしないし、夜になればやっぱり眠たくなるし、妹のことが心配になってこっそり後をつけて行ってもすぐにばれてその上妹に叱られる。くすん。
――世界はそんなに都合よくできてないんです!
ってだれに怒ってるのか。

「よしっ」
なんだか妙な考え事をしつつも家事は慣れたもので、買いだしてきた食材等々消耗品等々をみなあるべき場所に片付け終わった。
ざざっとお米を研いであとは炊飯器にお任せする。
この家に引っ越してから初仕事の炊飯器さん、これからもよろしくお願いしますね。
村を出るときに貰った干しシイタケを水でもどしながら、のんびりと里芋の皮をむき始める。私の料理はとことん和食メインだ。おじいちゃんの影響で、お味噌は白みそ。
料理を作り始めたら台所の中は私のひとり舞台だ。前のお家より狭くなったおかげでむしろ動きやすくなった気はしないでもない。
まだ妹は帰って来ないけれど、なんとか温かいご飯が出来る頃には帰ってくると良いな。
――ふと、思いだしたことがある。
「そうだ、食卓がまだ無いんだった」
ごろごろと水中を転がる里芋を目で追いながら、どうしたものかと髪の毛を掻きあげる。
居間に目を向けてもそこにいるのは畳マットがその存在を主張するように寝そべっているだけで。
うーん
「まぁ、なんとかなる、かな」
いざとなったらダンボールでもなんでも、使えばいいやと決めて料理を続けることにする。
水を流したボウルの中で、里芋がコトンと返事した。

Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-3b>>

原作⇒『Baroque Night-eclipse』 http://bne.chocolop.net/top/
ゆっくりと、ゲームをプレイしつつ書き進めて行きたいと思います。

ひとりめの気に入った絵師様にイラストを断られてしまってちょっぴりショボン

Baroque Night-eclipse二次創作小説<<一日目-3b>>

本作品はPBW『Baroque Night-eclipse』の二次創作小説です。 一日目の終わりが見えてきました。細い細い月ってどこか、ちょっと怖くないですか?

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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