ふたりの町
月に、心臓を、ぬきとられた。朝のバケモノが、ぼくらのために、光る。
おだやかな表情で、喫茶店の窓から、町をみていて、たいして、これといっておもしろいものがあるわけでもない、ただの町で、然して多くもない人口の町人がぽつぽつと歩き、通勤通学時間にしか混雑しない道路を、きまぐれに車が行き交う。きみは、いつも、オレンジジュースを飲みながら、たばこを一、二本吸うひとで、この町の、町らしいところが好きなのだという。街、ではなく、町、であると、たばこをくゆらせ、うつくしく笑む。ぼくは、ホットケーキを切り分け、ひときれずつ、くちにはこんで、ゆっくりあじわうように、かみしめているあいだに、発光することで、朝のバケモノが、真夜中のバケモノを、砂に変えて、世界は朝を迎え、そして、夜、ふたたび、真夜中のバケモノが形をつくり、姿を現す、この星の循環を、想い、けれど、ホットケーキがおいしいという、いま、この瞬間が、もっとも尊いものであればよいと、あらためる。
町では、空が、近くにみえた。
高いビルがないから、と、きみは云う。
値上がりしてゆくばかりの、たばこを、やめられないから、ではなく、好きだから、という理由で吸い続けている、そんなきみが、ぼくは好きだった。
ふたりの町