時計

この作品のお題は【時計】です。
すれ違う定めのような何かについて。

 僕らはすれ違うことの方が多い。何度も、何度も。
 でも、この世には一度の邂逅もく終わってしまう命もある。それを思えば、もしかしたら、私たちは幸せなのかもしれない。
 僕は彼女を追いかける。とても活動的な彼女は、僕の巡る何歩も先を行って、沃野を切り開く。
 彼は私を待っている。とても泰然とした彼は、私のように浮足立たず、構えて大地を踏みしめている。
 僕が朝焼けに微睡むときも、白日に目を細めるときも、夕映えの空に息をつくときも、彼女はひと時も休まず世界を飛び回る。
 私がわき目も降らず街々を行き交うとき、彼は立ち止まってゆっくりと、大勢の人々に微笑む。
 僕らは正反対のように見えるかもしれない。
 私たちは同じ方向に進みながら、足並みを揃えることはない。
 でも、僕の彼女への憧れは止まらない。
 私の彼への尊敬は止むことがない。
 そうと決められたときから、僕らは支え合い、運命を呪いながら、夢見ている。
 例え、日に二十四度の口づけを交わせたとしても、共に過ごせるのはわずかだけ。
 いつか隣同士歩めるときを思って、微かに見える地平線のその先を目指す。
 いつか互いの手を取って、笑い合えるときを思って、私たちは歩み続ける。
 
 君とある、未来へ。
 

時計

時計

すれ違う定めのような何かについて。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-05

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