公衆電話の残り香

章子

公衆電話が あった
あの、店先に
古い 眼鏡屋の
前に 

あそこから繋がる
どこかの 誰か

別れを告げに
恋を告げに
怒りを吐き出しに
思い煩いを下ろしに

ここへ来た人の
残り香が 渦巻いていた

私は尊重して 迂回して
公衆電話を
遠巻きに 距離を置いて
通り過ぎた

もしもし?

一瞬の、ためらい

どの繋がりにも
きっとわずかな迷いがあって
言葉が ほとばしり出たに
違いない

そこは錆びついて
古びた 場所

知っている
届かなかった思いが
消化されずに
浄化されずに
あちこちに落っこちたままだという事を

私はでも
気がつかない振りをして
通り過ぎた
振り向かなかった
確かめたくなったけれど

あれは、いつか私に向けられた
思い、じゃないかって

時を超えて
空間も変えて

もしもし?

私を突き刺してしまう
強い残り香

もしもし

公衆電話の残り香

公衆電話の残り香

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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