詩、色々

崩壊の午後

ゆっくりとこわれてゆく街の午後の水面に揺蕩う蓮の花の群生をみつめて知らない誰かのつぶやきに身を引き裂かれた気分になってるインターネットに蝕まれるばかりの神経にかなしみのなみだも一瞬でかわいて砂漠の星おだやかさとやさしさが融合して永久にきみが笑っていられますようにという途方もない祈りが遮光カーテンの裏で朽ちて

金曜日の悪魔は嗤う

夜の空気のよどみがわすれたい記憶を呼び覚まし浅かった傷を容赦なく抉るのはたいてい金曜日の喧騒が波のさざめきにも似た都会で誰かを想うときに一グラムでも愛がまざっていないと気づいたら膿んで腐ってゆくだけの神経もてあそばれるだけの恋愛につばを吐いて一生しぬまでいるきみだけを好きになりたい週末に浮かれる人々を横目に

ふたりの夜明け

ラジオから流れてくる音楽がひどく茫洋として聴こえる朝に誰かが空に覆い被さっていたぶあつい雲にナイフを入れたのか裂け目から差し込んでくる陽光をみた先生が天使の梯子だと言ってカーステレオのボリュームを下げた海岸線 夜明け

秋に浸る

理科室は夏でもひんやりとした面持ちでぼくを招き入れて骨格標本が部屋のすみっこでどこかさびしそうに立ち尽くしているのをぼんやりと眺めているあいだに先生が準備室の冷凍庫にかくしているアイスクリームをだしてきて食べてるそんな季節が過ぎ去ってかたわらにはもう冬

赤色の朝

ルビーの色が血をおもわせるほど赤く鮮やかだった朝のテレビはすこしだけ刺激が強すぎてぬるくなったコーヒーをいっきに飲み干したあとにきみがきのう二十一時にアップした動画をひらいた流行りの歌だって知ってはいたよ果てしなくやさしいからなんだかちょっと憎らしいと思ってたんだ

やさしさにとける

れもんケーキの甘酸っぱさが日曜日の午後をやわらかなものにして陽光かなしみが電波に乗って流れてくることに怯えながらも呼吸はおだやかでいたいと思う 無抵抗 不可抗力 どこかの国のうつくしい風景の写真集をながめているきみの睫毛がときどきふるえるミルクティーにひたっているみたいな十五時

みんながおなじドラマを観ている世界

六月にわすれてきた感情のなまえについてノートに書き写しておけばよかったと思う九月のおわりは緩やかに下降してゆく空の月に手が届きそうな気になっていて何グラムかのからだのなかに宿るたましいのことをきみがしょうゆせんべいをばりばり食べながら考えている横顔をみつめて今夜のテレビはたいくつだからきみの世界でねむりたい

夕景

わにのせなかにちいさな花が咲くころに残酷なだれかが目を細めて悪意に満ちた嗤いを浮かべながら星を破壊してた夕焼けとともになにもかもが燃えてしまえば少しだけ世界は救われるかもしれないなんて煙草を吸っているきみが火のついた先端で宙に描く模様が透明な点と線をつないで星座になるとき一瞬の美しさに見惚れた

夜の焦燥

明るみのない街のかたすみでゆるやかなくるしみによる絞首に壊れた蛍光灯みたいにちかちかと明滅する視界だれがだれに恋をしても幸福と不幸はバランスよく分配されて赤信号が滲んで膨張したとき焼き切れたピアノ線はからだのなかでいびつな音を鳴らす心臓のかたわらにはいつも きみ

光夜

いまはもう夜色に染まったビルの群れを見上げて口ずさむメロディーが深海にとけてゆくように歩道橋から送る透明な手紙は果てしない闇を伝ってきみのスマホを光らせる静かにひっそりときえてゆく街の灯りをかぞえるとき胸のなかにぽつぽつとうまれる空虚さびしくかがやく星

こわれそう

うまれたばかりのいきもののやわらかさに触れて三日月のたよりなさに似ていると思いながらエンドロールをみているときの昂揚と寂寞のあいだで揺れている気分でいままさに産声をあげたあたらしいせんせいのからだを傷つけないようにそっと手を這わす寝室は繭でぼくは母親で指に纏わりつく半透明な膜にくるまれたせんせいは はかない

月を見る

駅のホームで見上げた狭い空にくっきりと浮かぶ丸い月のりんかくがにじんで黄色が溶けだしたと思ったとき僕は泣いていたのだ優しい嘘がアイスクリームをすくうみたいに抉った胸のうらがわのやわらかいところに君がいたので痛みはしびれるように甘く寂しさだけが表面で帯電していた十月

詩、色々

詩、色々

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-10-02

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND
  1. 崩壊の午後
  2. 金曜日の悪魔は嗤う
  3. ふたりの夜明け
  4. 秋に浸る
  5. 赤色の朝
  6. やさしさにとける
  7. みんながおなじドラマを観ている世界
  8. 夕景
  9. 夜の焦燥
  10. 光夜
  11. こわれそう
  12. 月を見る