替玉おかわり

不快に感じる表現有です

「君がいなくなるとか聞いてないよ。
いっつも言ってくれていたじゃん。
何で?どうして?
聞いてもいない今日の楽しかったこととか、君から喋ってきたのに、何でこんな大事なことだけ隠して行っちゃうの。
親よりわたしのが大切って言ってくれたのあれ嘘だったの?
君、親なんか大嫌いだって。
親が死んでも顔なんか見てやらないって言ってたじゃん。
ずっとわたしの傍でわたしの為に生きるって、そう、言ってくれたじゃん。
約束だよ、って優しい声で言ってくれた。
え、何で?
憶えていたのはわたしだけ?
あー、もうダメだもう。
全部全部ダメになったよ。
この部屋も毛布の温もりも全部嘘っぱち。
形にならないものなんて、信じるんじゃなかった。
あー。
あはは、ああ、これからどうしよう。
君が嘘だったんだね。
『嘘はつかないで』って君はわたしに言ったよね。
どっちだよ。
嘘つきはどっちだよ!
いらない、全部君のものなんて必要ない!
捨てよう、どうせ壊れていたんだから。
大事にする必要なんてなかった。
カケラも残さずにすべて捨ててやるんだ。
君は嘘をついたんだから。
ねえ今幸せ?
幸せかなあ。
…幸せ、なんか。
何で、もう涙なんか出てくるんだよ。
最高にハッピーだよ。
君がいなくなって、楽になれた。
いや、これからなるのか。
余計なこと考えなくていいんだ。
ようやく幸せになれるんだ、わたしだって。
泣くな。
笑いなよ。
笑いなって!」

君のむきだしの言葉をテープレコーダーから流して聞いていた。
口の中で転がしていた塩あめが美味しくなくなっていた。小さくなってきたから噛み砕いて嚥下する。
理想通りの女性なんか見つかるわけないか。いや、でもまだ諦めるのは早い。包装を破いてあめをもう一個口に入れる。
後ろにマグロみたいに寝たままの腹上死した女の太腿に思わず触れてしまった。冷たくなってすでに興味も失せた体だ。
この人もダメだった。君も同じく、理想ではなかった。
何処にあるんだ。
誰もが手にしているはずの幸せっていう関係は、誰が持っているんだ。
疲労を感じてため息が出る。
幸せとか、それこそ理想なんじゃないのか。殺しても何もわからなかった。血で汚れた包丁が、鋭利な切先を僕に向けている気がした。

替玉おかわり

替玉おかわり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-30

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