白とブルー

今日はからっとした良い天気だった。
目深に帽子をかぶった視界では澄み渡る青空の半分も見ることはできないけれど。
僕の目に、昔の思い出がよみがえっていた。
今も鮮やかに憶えている、あの人と二人で帰った通学路の色。
数少ない青春の一枚だけ、僕の記憶に焼きついている。
多分死ぬ間際にも色鮮やかに思い出すであろう、今はなぜかそう思える。
別にすぐ死ぬわけでもないのに、誰が見ても綺麗なこの青空の下を一人で歩いていると、「もういいか」と思った。
何が「いい」のかはわからなかった。
あと10分後にはどうなっているかわからない、今、この時間だけは何事も起きなくて僕は絶対安心の世界にいる。
だから妙に落ち着いていた。
これが、10分後に近くで事故でも起きたら今までの世界が一瞬でもろとも崩れ去ってしまう。
いや、違う。
もう10分後の世界に片足を突っ込んでいるのだ。
そして、絶対安心の世界が広がっていく。
崩壊の合図が遠のいて、またどこかから近づいていく。
きっとその合図のタイミングを決めるのは…。
瞬きをして、もうさっきまで何を考えていたか忘れてしまった。
あの人との思い出を回顧していたんだっけ。

そういえば、今日はひどく空が青い。

白とブルー

白とブルー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-29

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