湿地

湿った部屋の匂いが 僕をまた憂鬱にさせる
そう 僕はいま憂鬱なんだよ
意味もなく憂鬱なんだ 死にそうなほどにな
意味もなくページを捲る 追想に捧げた手記のページを
「ここには僕のすべてが記されている」
長いこと一人でいたんだ 僕はそう思わずにはいられなかった
それにしても 僕はあんな声をしていただろうか
長いこと一人でいたんだ 僕は狂い出さずにはいられなかった
見せしめのように僕を映し出す光を この手で黒く塗り潰したいと思った
その憎たらしい光の正体は然し 自分だった
僕が憎んでいたのは他でもない 自分だったのだ
僕は自分で自分を苦しめていたことに長いこと気づかなかった
無理もないだろうな 僕は狂っていたのだから
僕は何かの感覚がすっかり抜け落ちている気がしていた
その空洞を吹き抜ける風さえも憎んでいた
然し 振り返るとそれは確かに幸せだった過去による吐息だった
僕は今度こそ絶望して この絶望ごと手記に書き殴っていた
来る日も、そう、来る日も。

湿地

湿地

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-26

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