詩街

わたしの空は いつも唸っている
空の下には わたしひとりが蹲っている
なにかから身を守るが如く 怯えるように蹲っている
その唸りを発しているのが
他でもないわたしだということに気がつくまで
わたしは わたしが狂っているだなんて 想像にも及ばなかった

偽物の太陽に照りつけられ
偽物の雨に晒され
数えきれないほどの幻を目にした

断崖から見下ろす無人街には
そこは確かに誰ひとり存在しないはずなのだが
聴いたことのない けれどもどこか懐かしさを秘めたような
歌詞のない哀悼歌の輪唱が いつまでも響き渡っていた

あの幻のなかでわたしは 果たしてなにを得たのだろうか
真実を真実たらしめるものは なんだったのだろうか
わたしがいま映しているわたしは一体
いつのわたしが造り出したものなんだ?
なにかに突き動かされたように崖から身を投げ出すと
街は街ではなく 茫漠とした無色の海だった
わたしはことばが持つ意味性について思考を巡らすのを辞めた
わたしはわたしという意味さえも獲得することができなかった!
わたしはずっと わたしという流動的な人間を演じていた
意味を持つこと あるいは意味があること
その必要性に翻弄されていた!

色のない海で泳いでいるとき
わたしは非常に心地が良かった
わたしはわたしを幾層にも包み込む邪悪な膜を
一枚ずつ引き剥がしていった 脱獄囚のように

透明な裸体となって
空と 大地と そしてこの海と一体となって
迫り上がってくる情動をそのまま叫んでいるとき
わたしは幸福そのものだった
わたしはわたしという呪縛から解き放たれてはじめて
あるゆる風景を愛おしく思えた
情動による詩だけが わたしを詩人たらしめていた
そこに意味がなかったとしても
それはいつまでも わたしのなかで強く光り輝いていた

わたしは確かに 詩によって生かされていた

詩街

詩街

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-25

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