僕の支配者
西の深海に沈む太陽の火が消えた頃に迎えにきてほしかった。一度は森のなかで共に生きることを誓った君は僕の知らないどこかの世界線で水槽を泳ぐ魚になった。ちいさな部屋の白いベッドの上で眠るおかあさんのことを思い出すと胸のなかがぐしゃぐしゃになる紙を乱暴に丸めたみたいに。真夜中のコンビニエンスストアの明かりがすべてみたいな夜もあってそういう夜に限って僕はひとりではなかった。ほんとうのなまえもしらない誰かと致す行為の空白を埋めるのは甘くないビターチョコレートひとかけらでいいのだと思いながら滅多に吸わない煙草に火をつけた瞬間のめまいは君と共有したかった。からだのなかでなにものにもならない誰かの色に染まった情を無益にすることへの懺悔など無意味だと耳もとで囁くのはいつも君だ。
僕の支配者