君は夜
都会に潜む毒が溢れたとき窒息するのはいきものとかのつまりは生命体で朝が消え失せれば夜の寂寞に包まれて心臓の鼓動だけが星を震わす。誰も知らない孤独を君だけが知っている不条理さに理性というのは案外脆く理科室の人体模型がいつもそこに佇んでいたみたいに空っぽの君が十九時の駅の改札口で待ちぼうけているのを観察する僕を悪趣味だと罵るのはもうひとりの僕だけである。赤い薔薇の花弁を撒き散らしてスローモーションで倒れてゆく穢れた僕に手を差し伸べた聖母のような君が噛み締めるひとりの夜を彩るのは人工的な光。ピンク。パープル。ホワイト。濃密な空気に浅くなる呼吸。甘い囁きが鋭いナイフとなって首筋に添えられる。なまえもわからない誰かと入った繁華街のホテルのベッドは安っぽく沈んで君は夜を越える。
君は夜