秋の気配
こどもの声がして、九月の、孤独にしんでゆく分身したきみが、夜の月を削る。
夏の青さが恋しくなるとき、街が歪んだ玩具箱になる。だれかのくちびるが、ぼくのなまえをかたどるとき、ぼくは、浮遊する物体となって、明け方の海に飛び込む。おおかみが徘徊する二十五時に、星が一瞬、まばゆい光を放って、光を放出した星は、おそらく、もう、二度と輝くことはないのだと、かなしげな表情で、きみは云って、輝きを失った星があったあたりを、ぼんやりと見つめている。輪郭を変えてゆく、月。閃光を最期に息絶える、星。恋に溺れた、ひとりめのきみ。壊すことに快感をおぼえた、ふたりめのきみ。ばかみたいにすべてをあいする、きみ。さびしいのは、夏の存在感が、あまりにも鮮明に、公園のベンチに、ビルの窓に、しんと静まり返ったプールの水面に、焼きついているから。
もう一生、えいえんに、三日月。
秋の気配