秋の気配

 こどもの声がして、九月の、孤独にしんでゆく分身したきみが、夜の月を削る。
 夏の青さが恋しくなるとき、街が歪んだ玩具箱になる。だれかのくちびるが、ぼくのなまえをかたどるとき、ぼくは、浮遊する物体となって、明け方の海に飛び込む。おおかみが徘徊する二十五時に、星が一瞬、まばゆい光を放って、光を放出した星は、おそらく、もう、二度と輝くことはないのだと、かなしげな表情で、きみは云って、輝きを失った星があったあたりを、ぼんやりと見つめている。輪郭を変えてゆく、月。閃光を最期に息絶える、星。恋に溺れた、ひとりめのきみ。壊すことに快感をおぼえた、ふたりめのきみ。ばかみたいにすべてをあいする、きみ。さびしいのは、夏の存在感が、あまりにも鮮明に、公園のベンチに、ビルの窓に、しんと静まり返ったプールの水面に、焼きついているから。
 もう一生、えいえんに、三日月。

秋の気配

秋の気配

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-04

CC BY-NC-ND
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