わたしを忘れないで

 研究室の、ガラスケースのなかは、つめたかったので、冬眠して、そのまま、目を覚まさないというシナリオを、思い描いたのだと、きみは苦笑いをして、ぼくは、あの満月の夜に、町はずれの、大地の裂け目から、星の表面があらわになった場所で、星、とは、どういう原理で宇宙に浮かんでいるのだろうと、ひとりぼんやり、かんがえているときに、人型になれる、ライオンと出逢い、自然のなりゆきで、つきあいはじめた。だれも、きれいな夢なんか、みていなくて、ライオンはふつうに雄だったし、ぼくもそうなのだけれど、かまわないといって、というより、好きになったら性別なんて関係ないでしょうと、なんか、まんがのなかではよくみるけれど、じっさいにはあまりきかないセリフを、ライオンはさらっとはいて、たてがみが月の光を浴びて、きらきらしていた。左脚、太腿の外側に、勿忘草が群生し、きみの皮膚を蔽いつくしていて、いくら摘み取っても、花はまた咲く。ライオンとおこなったセックスについての感想を、ときどき、感想文調に述べてみたい朝もある。気持ちよかったけれど、少しだけ痛かった。ライオンは、人型でするより、ありのままでする方を好む。綿の海に沈んでゆくような、ふかふか感と、息苦しさが、クセになりそうだった。きみの、左脚の太腿に、無限に咲きつづける勿忘草を、プリザーブドフラワーにして、そのたびに部屋に飾るひとが、研究室にいて、青色に染まる部屋の写真をみたとき、いっそ、ぼくを生きたまま展示してほしいと思ったと、きみはいった。

わたしを忘れないで

わたしを忘れないで

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-09-03

CC BY-NC-ND
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