ダンスホール・ハイウェイ

 かろやかな、ステップ。あざやかな、まよなかの、高速道路の、街灯。オレンジ。
 むかし、おきわすれてきたものを、ときどき、思い出しては、指折りかぞえる。両手で事足りるほどだけれど、きまぐれに思い出すくらいには、愛着があったもの、後悔も、ノスタルジアと呼べば、響きはいいけれど、でも、そういうのとはすこしだけ、ちがうもの。離した手の、あの冷たさは、いまでも、夢にみるよ。冬の海に、突き落としたような気分は、たぶん、一生、わすれないのだろうし、きっと、わすれないのが、つぐないなのだと思う。ぼくのなかの、きみへ。
 セーラー服の少女が、踊ってる。
 二十五時。
 高速道路は、無法地帯で、パンダのディスコダンスに、おとこのこたちの花売り。月下香。おばあちゃんが弾くエレキギター、おじいちゃんが吹き鳴らすトランペット、合奏。宴、あるいは儀式、もしくは、もっと、仄暗いもの。
 やさしい絵描きが、ぼくのとなりで歌う。明日になったら笑えているよ。絵描きの、おだやかな歌声が、ぼくのからだを、甘く、容赦なく、打ち抜いてゆく。明日、という言葉の、途方もなさ。

ダンスホール・ハイウェイ

ダンスホール・ハイウェイ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-08-31

CC BY-NC-ND
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